王族ファンタジーお題 (場所でのお題) Lo Reale Parco様より 1:ひとときの宴会で さらさらと、絹が鳴る。 遥か頭上にシャンデリア。 綺麗に整えてもらった髪型が崩れてはいないかと、気になってどうしようもない。 楽団の奏でる音楽がざわめきの向こうに響いているはずなのに、折角の演奏に耳を傾ける余裕も無い。 隣に立つ父様が、私の背に軽く手を当て、 「娘のセシリアです」 と、私の紹介をしているらしい事はかろうじて分かるのだけれど、それすらもただ『分かる』だけ。 「初めまして、セシリア姫」 応えるその声が、悔しいくらいに心地良く耳に残る。 「は、初めまして、シェル殿下。ウィスタリア・セシリアと申します」 やっとの思いで出した情けなく上擦った返事を、心の中で引っ叩く。 返された穏やかな微笑みに、つられて顔がほころびた。 大きく開け放たれた窓から、静かに風が吹き抜ける。 さらさらと、高く澄んだ空色の髪が揺れる。 風の吹く方を向いたその人から、ほんの微かに香水が香った。 それは、周囲の人達から香るむせ返る様なきつい匂いの中にあって、彼の印象そのもののように穏やかに澄んでいた。 2:王宮の中で 「レンガ、いくらシキが居るからといって、裏庭で昼寝をするのは止めなさい。偶にとはいえ政務官や役人も通るしね」 「そうそう。せめて奥庭にしとけって」 (――そういう問題じゃないんだけどな……) 3:後宮 もう決して、彼女に会うことは叶わないのだと。 塵一つ無く整えられた、主の居ない部屋で。 その、あまりの空虚さに、ただ、泣くことも叶わずに。 4:バルコニー バルコニーにテーブルセットを出し、のんびりと過ごす午後の一時。 静かに本を読んでいたレンガが、突然ぼそりと呟いた。 「ああ、ロミオ。貴方は何故ロミオなの?」 「――いきなりどうされたんですか」 「昨日読んだの。家同士の仲が悪かったせいで、恋する二人が結ばれなくて――って話」 「ああ、流行りの戯曲ですね。確か今、国立歌劇場で上演中では?」 「そう。バルコニーでね、結ばれない恋人を思って今のセリフを――」 「『見渡す限り樹々の梢を白銀色に染めている、あの美しい月にかけて』?」 「……いつの間に読んだの」 「貴女がお休みになられた後に」 「――もー」 「すみません」 (月は確かに満ち欠けるけど、月聖に誓えるのなら、それは死んでも一緒ってことだから) (それは、きっと永遠なんだよ) 5:仕立屋 「私ね、服を仕立ててもらう時に、白い髪で良かったなーって、いつも思うの」 「? 何故でございましょう?」 「だってね、水色の髪って、似合う服の色の選択肢が少ないもの」 「――左様でございますね……」 「でしょう?」 (あ、シキが笑いをこらえてる) 6:王立アカデミー(王立の学術機関) 広大な敷地に立つ、白亜の建物。 皇立中央学術院。 ラエティア最上の学び舎であり、同時に研究機関でもある。 ここを上位の成績で卒業することができれば、未来は約束されたも同然と言える。 少し長めに整えられた明るい茶色の髪を揺らし、大理石張りの床に響く足音を残しながら、少年は歩く。 手にした革表紙の厚い本に目線を落とし、時折、ずり落ちる眼鏡を押し上げる。 顔を上げることも無く、すれ違う人を器用に避けるその姿は、周囲の者と比べて随分と若く、十五才になるかどうかといったところ。 身にまとうローブは、黒に近いほど深い緑。 このローブの色が、それぞれが属する学部を示す。 深緑は晶霊学部の色だ。 晶霊という存在、その力を借りて行使する晶術、とにかく晶霊に関すること全般が研究対象となる。 「おい、アル!」 後ろから呼び止められ、アル――アルヴィスは、立ち止まり振り返った。 少し離れた所から、手を振りながら走ってくる同学部の友人の姿を認め、軽く手を上げる。 「何かあった?」 僅かな距離を走っただけで息が切れた(さすが本の虫・引きこもり研究者としか言い様が無い)友人の呼吸が整うのを待ちながら、アルヴィスはまた本のページをめくった。 「教授がまた、『これぞ世紀の大発見だ!!』って大騒ぎを始めた、とか」 「違う、お前に客だ」 「――え?」 予想外の言葉に、言葉に詰まる。 自分を訪ねて来るような人間には、全く覚えが無い。 「きゃく」 「そう。こないだ雑誌に論文出してたろ。それについて、とか」 「ああ、そういうこと」 近い内に書くことになるだろう卒論の予行のつもりで書いた論文を、それなりに名の通った晶霊学専門誌――ちなみに季刊誌である――に何となく投稿してみたのだが、どうやら採用されていたらしい。 「かなり高そうな服着てた」 「わー 行きたくないなぁ……」 高い音を立てて本を閉じる。 押し出された空気に乗って、古い本独特の匂いがした。 あとがき 〜とりあえず、一言ずつ〜 1:ファーストコンタクト 2:女の子なんだからね 3:遠い日に消えた光 4:叶うことの無い、夢を見ている。 5:シキの笑いのツボは、私にも分かりません。(会話は仕立屋と) 6:その内、出て来るかも知れない、二度と出て来ないかも知れない人のこと。 会話主体で短文にもなってない。 その上、色々と尻切れとんぼな。 ていうか、こんな短い文章くらい、人称そろえようぜー。 王立アカデミーのみが、えらい難産でした。 『皇』という漢字を使うのに、さして意味はありません。 あえて言うなら、ラエティア聖皇国だから。 『王女』とかじゃなくて『皇女』とか使うのもそうです。 (本文は微修正、あとがきは日記に書いたそのままです) 2005/09/13 日記にて初出 2006/01/01 小説ページ格納 Back |
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